〇医療セミナーからの情報

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Go to fullsize image衛生・医療事情一般

 

 首都オタワは北緯45度23分に位置し、北海道の稚内市の北に相当します。夏は短く、冬の寒さは厳しいですが(-30度以下になることもあります)、四季があり、湿度が低いため冬以外は過ごしやすい気候です。


   一般的な医療水準は高く、臓器移植やがんについても最先端の治療が行われていますが、アクセスの悪さなどが大きな問題になっています。カナダの医療制度はメディケアと呼ばれる国民皆保険制度を採用しており、コアとされる主たる医療については患者の自己負担が一切なく、全てを税財源で公的に負担しています。全ての国民は皆保険を取得できますが、移民の場合取得まで3ヶ月間、また留学生(ワーキングホリデイ含む)等は公的医療保険を取得できない州もあり、その場合、医療費は有料になります。また、コアとされていない医療、具体的には、歯科診療・処方薬剤(入院中は無料)・リハビリ治療などは全額個人負担となります。高額な医療費請求に備えて、渡航前には旅行傷害保険に加入しておくことをお勧めします。


   最大の問題点は医療機関へのアクセスの悪さ、待ち時間の長さにあります。一般に医療機関を利用する場合には、まず地域の家庭医を受診する必要があります。しかし家庭医は、実数が少なく、また患者数を制限することが許されているため、新規の患者を受け付けていない場合が少なくありません。運良く家庭医を持てた場合でも、医師は基本的に保険医であり診療報酬に上限が設けられているため、1日の診察人数を制限している場合も多く、予約が1~2週間後ということもあります。また、専門医については家庭医の紹介なくしては受診できないシステムになっていますが、極端に医師数の少ない科(整形外科、皮膚科、産婦人科など)では、数ヶ月後から1年先にしか予約がとれない状況です。また、医療費抑制政策により、CTやMRIなどの検査機器の数が日本に比べて極端に少なく、検査の待ち時間も何ヶ月も先という状況です。


※フレーザー研究所のデータ(2011年)によれば、家庭医から専門医までの紹介待ち時間はカナダ全州・全科の平均で9.5週、専門医から実際の治療までの待ち時間は9.5週です。数が少ない整形外科医の場合、紹介待ち時間は19.7週、治療までの待ち時間は19.4週です。また、CT検査の待ち時間は4.6週、MRIの待ち時間は9.2週と報告されています。


   家庭医を持っていない患者さんが受診できるのはウォークインクリニック(注:ショッピングモールや街中にある簡易診療施設)ですが、常に混雑しており、オタワ市内の場合、数時間待ちが平均です。また、ウォークインクリニックには、レントゲン検査機器、簡易血液検査機器、超音波検査機器などの基本設備を設置していないところがほとんどです。


   ウォークインクリニックの時間外・週末・重傷の場合は総合病院(公立)の救急外来(ER)を受診することになりますが、これもまた待ち時間が長い状況です。ERでの待ち時間については州の保健省のホームページなどで公開されていますが、これによると、オタワ病院の場合、患者10人中9人は、複雑症例で14.6時間、単純症例で5.2時間と表示されています。病院での手術待機時間についてもホームページで表示されていますが、それによれば、オタワ病院の場合、人工股関節置換術で372日等となっており、手術を受けられるのは1年以上先という状況です。ERにおいては患者のトリアージ(ふるい分け)がトレーニングされた看護師によって行われており、命に関わる疾患については早めに治療が開始されますが、緊急性が無いと判断された疾患については後回しにするというシステムが徹底されており、上記のような待ち時間の状況となっています。ERにおけるトリアージ・システムの無い日本では遅滞なく順番に診てもらえますので邦人にとっては大きな不満の種になっていますが、平等を重んじるカナダ人にはコンセンサスが得られているようであり、現在のところ大きな不満・政治課題にはなっていません。


   しかし、近年、こうしたカナダの伝統的な医療の平等性(選択の不自由さ)に疑問を持つ人々も増え、この不満を吸い上げるために民間医療機関(プライベートクリニック、検査機関等)が一部の州で解禁されています。2005年6月ケベック州において「自由診療の禁止は人権に反し違法である」との“シャウリ判決”が出たことも大きな影響を与えています。カナダの国民保険を有しない人々や、待ち時間を短縮したい富裕層にとって民間医療機関は有用であり、利用者が増えています。こうした施設では自己負担での医療が制限付きで(入院設備は伴わない等)行われていますが、いまだ数が少なく全体としては数パーセントを占めているにすぎないのが現状です。      

 

※医療セミナーからの情報 (トロント商工会主催。2013年7月6日開催)

 

2013年7月6日にトロント日本商工会主催で医療制度セミナーが開催されました。OHIP・ファミリードクター制度・予防接種などについてのたいへん有用な内容でした。掲載の許可をいただきましたので以下、概要ご紹介いたします。

 

講演者:Dr. Jonathan Carr(トロント家庭医)、Dr.伊藤真也(トロント小児病院小児科教授)。

Carr医師による説明の後、伊藤医師による解説・質疑応答が行われました。

 

1.OHIP(Ontario Health Insurance Plan)について

税金でまかなわれる州の医療保険であり、取得は無料です。カナダ市民権・移民権もしくは就労ビザ保持者(ワーキングホリデイは不可)は下記の条件を満たせば申請可能です。

1)オンタリオ州居住者。

2)居住開始後はじめの183日間のうち30日以上オンタリオ州を出ていない。

3)1年間のうち153日以上オンタリオ州にいる。
ただし申請後3ヶ月間は待機期間があり、この間は未保険状態になりますので、個人的にプライベート保険(学生はUHIP:大学側が斡旋する保険など)に加入しておきましょう。
※プライベート保険はOHIPが適応されない場合に備えて、そのまま維持されている方も多くいます。

○OHIPが適応されるケース
医師により施される全ての基本的医療サービス及び緊急医療サービス。適応の詳細以下。
歯科:病院で実施された医療行為のみ適用。クリニックでの施術は不適用。
足治療(Podiatrist):一部のみ適用。
理学療法:66歳以上でOHIPクリニックでの治療に適応。怪我直後など医学的に必要とされる期間のみ適応。
検眼:19歳以下もしくは66歳以上で1年に1度の検査のみ適用。眼科関連疾患(糖尿病、緑内障)を診断された場合には年齢に関係なく適応されます。(近視・遠視は不適用)
心理療法・カウンセリング:医師による治療のみ適用。(カウンセラーによる治療は不適用)
ほとんど全ての臨床検査:適用。ただし人間ドック、開発直後の新しい検査などは不適用。
予防接種:ほとんど全て適用。(ただし海外旅行目的の黄熱病等のワクチンは不適用)

○OHIPが適応されないケース
美容整形。

看護師・介護士・ソーシャルワーカー・カイロプラクティス・栄養士による施術・指導。
自然療法・ホメオパシー・代替療法。

予約したのに受診しなかった場合に請求されるキャンセル料。
救急車(45ドル程度一部負担します。救急の医師が不必要だったと判断した場合には240ドル請求されます)
薬代(ただし65歳以上もしくは低収入者には適応)
※上記については私的医療保険がカバーするケースが多いので、各保険会社にご相談ください。

○OHIPの適応地域
カナダ国内については全ての州で適応されます。
カナダ国外については緊急時のサービスのみ、オンタリオ州のレートで適応されます。(米国などの医療費は高額ですので、オンタリオ州がカバーする医療費では全く不十分です。海外旅行をされる場合には、短期間でも必ず旅行傷害保険に加入してください。)

○プライベート医療保険について
多種ありますが、それぞれの契約内容になり適応される割合が異なりますので、保険会社にご確認ください。
主なプライベート医療保険会社:Blue Cross、ETFS、TIC

 

 

2.ファミリードクター(家庭医)制度について

カナダでは個人の既往・内服薬・家庭状況などを継続して把握してもらうために家庭医を持つことを勧めています。また、専門医の受診は家庭医からの紹介状が必要です。ただし小児科医については直接受診が可能です。オンタリオ州でも家庭は不足していますが、下記の方法で探してください。
1)Health Care Connectに連絡して紹介してもらう。電話:1-800-445-1822 (9:00~17:00、月~金)または、

    HP:https://hcc3.hcc.moh.gov.on.ca/HCCWeb/faces/layoutHCCSplash.jsp

2)総合病院の”Family Practice Unit“に連絡して新規患者を受け付けている家庭医を紹介してもらう。

3)ウォークインクリニックに問い合わせる。

4)友人に聞く。

5)College of Physicians and Surgeons of Ontario(http://cpso.on.ca/docsearch/)で家庭医や専門医の所在地・連絡先を調べ、各病院に問い合わせる。

※家庭医にも専門性があり、小児科・産婦人科などに十分に対応できる場合も少なくありません。またもし登録した家庭医に不満がある場合には、替えることも可能です。(患者側には何の責務もありません。ただしOHIPによりカバーされない登録料等を請求されることはあります。) 過去の診療録・検査データなどはコピー代などを支払うことにより受け取り、次の家庭医に引き継ぐことが可能です。

※患者が予約時間に来ない、処方された薬を他人に売る、といった行為を行った場合など、家庭医は患者の登録・診療を断ることもできますのでご注意ください。

※各部がん検診・婦人科検診などは家庭医が実施し、OHIPでもカバーされます。ただし医学的エビデンスに基づいて検査が施行されますので、日本とは検査頻度・項目が異なることも少なくありません。人間ドックのような総合検診はプライベートクリニックのみで、有料で施行可能です。

※妊産婦については家庭医が診るケース、家庭医が紹介する産婦人科医が診るケースがあります。出産後のケア・母親教室などのプログラムも州により提供されています。トロント公衆衛生局(電話:416-338-7600)にご相談ください。

※小児の場合も、家庭が診るケース、小児科医が診るケースがあります。

※日本の学校で定期的に行われている歯科検診制度はカナダではありません。歯科で各自が実施してください。


○ウォークインクリニックについて 
以下の特徴があります。健康診断等の検査・予防処置をしない。毎回、医師が異なる可能性がある(継続性がなく見落としの可能性があります)。診療時間が長く土日も営業しているところが多い(メリット)。若く経験の少ない医師の可能性がある(デメリット)。待ち時間が長い可能性がある(予約がとれない)。下記サイトから検索可能です。
http://www.health.gov.on.ca/en/public/programs/hco/options/walkin.aspx

○プライベートクリニックについて 
エグセクティブなどのために会社などが利用しているケースが多いです。支払いをすることにより患者の希望の検査などを施行してくれます。(※医学的に真に必要な検査かどうかとは別問題ですとのCarr医師、伊藤医師のコメントがありました。)代表的な機関として下記などがあります。
Regal Health Services、Cleveland Clinics、Healthcare365

○その他の医療サービス 
Med Visit:OHIPでも適応される往診サービス。電話:416-631-3000
Tele Health Ontario:州による電話医療相談サービス(24時間看護師対応)。電話:1-866-797-0000
Mental Health Helpline:州による精神保健のための電話相談サービス。電話:1-866-531-2600

○緊急時の対応
病院の救急科(ER)に行きましょう。
911に電話をして、救急車・救急隊員を呼びましょう。

○救急科(ER) 下記の理由により待ち時間が長くなる可能性があります。
症状の深刻さ。混雑状況。病院の収容能力。感染症が流行している等。

○専門医について
受診には家庭医からの紹介状が必要です。予約がずっと先になる場合には、家庭医とよく相談して、別の専門医を紹介してもらいましょう。(家庭医によりスキルに差はありますが通常は専門医リストを科ごとに数人程度保有しているはずです。また、家庭医を替えることも可能です。)

○歯科医について 下記の歯科協会のサイトから検索可能です。
http://www.oda.on.ca/find-a-dentist24

 

 

3.予防接種について

OHIPが適応される定期予防接種の年齢・スケジュールは下記サイトで検索可能です。
http://www.health.gov.on.ca/en/public/programs/immunization/docs/schedule.pdf

 

 

4.他、質疑応答から 回答:Carr医師、伊藤医師

Q1: カナダの薬は日本に比べて強いと聞きますが。自分で量を調整しても良いですか?
A1: 民族性の違いにより多少の差はあると言われていますが、基本的には体重等で決められた量が処方されているはずですので、勝手に量を調整することは勧められません。

 

Q2: ドラッグストアで購入できる一般的な子供の薬などを教えてください。
A2: 鎮痛剤・抗ヒスタミン剤以外で、子供に有効な薬はほとんどありません。

 

Q3: 日本で施行されているBCGをカナダで接種できますか?
A3: 効果が少ないとされていますので、カナダでは実施されていません。

 

Q4: 政府指定のもの以外、任意接種のワクチンで、受けておいた方が良いものがあれば教えてください。
A4: 髄膜炎ワクチンの2回目(7歳時に無料で接種されますが、18歳頃にブースターとして2回目接種しておくことをお勧めします)。HPVワクチン(ガーダシル。Grade8の女児には無料で実施されていますが、受けそこなった場合、自費になりますが接種をお勧めします。尖圭コンジローマなどの予防にもなりますので、性活動が活発になる前に男児も受けることを勧めます)。帯状疱疹ワクチン(水痘ウイルスによる疾患ですが、高齢者では帯状疱疹として発症し、痛みが長期間にわたることも多いので、50歳以上の方にお勧めします。)

 

Q5: 救急科では長時間待たされると聞きましたが、救急車で行った方が早く診てもらえますか?
A5: 救急車の利用とは無関係です。早く診てもらえるかは重傷度によります。(胸痛は早く、膝痛は遅いなど)

 

Q6: 花粉症・アレルギーの診断・治療はどこでしてもらえますか?
A6: 家庭医です。食物アレルギーなどでアレルギー専門医に紹介されるケースもあります。なお、治療は日本とは異なり、減感作療法などはあまり実施されていません。

 

Q7: 季節性インフルエンザの検査・治療は日本とカナダでは異なりますか?
A7: カナダの場合には、インフルエンザの簡易検査はあまり施行しません。またタミフル等の抗ウイルス薬による治療も基礎疾患がある人以外ではあまり一般的ではありません。